カウンセリングの手の内

• 河合隼雄氏のカウンセリングに関する著書を参考にしたものです。
  • カウンセリングの手の内を明かしましょう。
  1. 「聞く」ということ
     • カウンセラーがその人の言い分を徹底して聞こうとすると、
     • この心の片隅に追いやられていた事柄を取り上げずにはおれなくなります。
     • カウンセラーが耳を傾けて聞くということは、
     • 心の片隅にあって忘れかかっている声に耳を傾けているといってよいのかもしれません。

  2. 可能性
     • はじめは想像もつかなかった解決への可能性が生まれます。
     • しかし、このような可能性が生まれてくるには、何回も話し合いを繰り返さなければならないのです。
     • 可能性というのは、良い面も含んでいるし、悪い面も含んでいます。
     • 人の話に徹底して耳を傾けるというのは、うっかりするとマイナスの可能性が話の中に出てくるので、
     • 軽々しく聞けるものではありません。

  3. 批判
     • 「時間がかかりすぎる」と批判する人の心には、
     • カウンセリングに時間がかかることではなく、
     • いらつきの感情を表現していると考えられる場合が多いのです。
     • 批判する人の感情をまず受け入れることでカウンセラーの事を理解してくれたりします。
     • ともかく、時間がかかりすぎるという批判に対して、
     • 「よいことをするには時間がかかります」と言わねばなりません。

  4. 批判
     • 例えば「はい」と相づちをうたれると、次に何か言わなければなりません。
     • そこでまた何か言ってもまた相づちを打たれる。
     • これを繰り返すとクライアントは自分で掘り下げた事実に
     • 自分で直面しなければならなくなってくるのです。
     • 実は、内的にはこのようにクライアントが自分自身の問題に直面してゆく過程を
     • 共にしようとする厳しさを持っているのです。
     • しかし、例えばクライアントが「私には、こんな欠点があります」と言った場合、
     • 「人間ですから、そんなことはあっても当たり前です。」
     • という甘さがカウンセラーの態度に色濃く出てくると、クライアントは安心してしまい、
     • クライアントはカウンセラーのもとに慰めと安心感を得るために訪れるので
     • 長続きするが進歩のないなまぬるいものとなってしまいます。

  5. 批判
     • 実際、それほど人間というものはむやみに変わるものではないように思われます。
     • しかし、カウンセリングは予想外の見事な効果を発揮することがあります。
     • 心の中で適当に片をつけて、それで事が終わったと思いたい人が、
     • カウンセリングによって、そのせっかくの安定が揺さぶられるために、
     • 腹いせに八つ当たりしている人さえいるように思えるのです。

  6. カウンセリングの基本
     • 普通だったら何か言いたくなるところを辛抱して、ずっと話を聞いていると
     • 「ともかく聞きなさい」という法則の方が実際役に立つ場合が多いのです。
     • 「なるべく環境に働きかけないこと」とか、「ともかく聞くこと」を覚えて言った方が良いのです。

  7. カウンセリングの過程
     • クライアントの目的は、悩みを解消する、問題を解決する、症状がなくなることです。
     • ですから、一通り悩みを話してしまうと、
     • 必ずといってよいほど「先生、そこで私はどうしたらよいでしょうか」と尋ねます。
     • これは自分の悩みを説明して先生に名案を教えてもらい、
     • それによって問題を解決することを希望しているのです。
     • ところがクライアントの意に反してカウンセラーがまだまだ話を聞いていこうとすると、
     • おもしろいことにほとんどの人はいろいろな話を始めます。
     • そうして、悩みの背景を成している事柄へと話を自ら進めていくのです。
     • これは、自分の人格の発達に関する問題、悩みの背景にある可能性を引き出して
     • それで人格の再統合をやりとげたといってよいと思います。

  8. 期待しているもの
     • クライアントがカウンセラーのところにやってくるときに、
     • クライアントの期待していることとカウンセラーの期待していることには、
     • 食い違いがあります。
     • クライアントは人格の変化というようなことは考えていなくて、
     • ともかく一刻も治りたい、悩みを解決したいと思っています。
     • ところがカウンセラーは多くの問題に直接的な解決策などないことを知っているからこそ、
     • 悩みの背景の方に回り込もうとします。
     • 実際にはカウンセラーが聞く態度を取り続けているとクライアント自身が、
     • その道へと進んでいくのです。

  9. 時間と場所
     • 通常の面談は１時間です。
     • 雑多な環境を避け、しかしいわゆる「説教部屋」的な印象を持っている場所も避けます。
     • 穏やかで静かな落ち着いた部屋を選びます。

  10. カウンセリングが可能か
      • ・拒否的態度のクライアントの場合
      • 拒否的な態度を示す人の方がカウンセリングは容易であるとさえ言えます。
      • つまりそれほど拒否的な態度をとらなければならないほど、
      • 内的には逆にカウンセリングを必要としている心の動きが潜在的に強く存在していると考えられるのです。大切なことはカウンセラーは常識の代弁者でもなく、社会道徳を押しつけようとしている人でもないこと、自分でも気づかない心の奥深い可能性の世界に焦点を当てている人であることを悟ってもらうことが大切です。ですから、かえって拒否的でもないが自主的に来るのでもないといった場合の方が難しいのです。
      • ・動機付けのないクライアントの場合
      • 表面上動機付けがあるとかないのはカウンセリングの困難さとはあまり関係がありません。

  11. 自分で悩みを解決したい人
      • 「自分の悩みは自分で解決したい。人の世話にはなりたくないので、カウンセリングはお断りする」
      • という人もあります。
      • カウンセリングのことを説明しても、なお自分で解決したいという場合は
      • 原則として強制できるものではありませんから、クライアントの考えに任せるしかありません。
      • しかし、嫌がる子どもを無理矢理にでも引っ張ってきて成功したという場合もあります。

  12. 問題が再発する場合
      • 人間の悩みは簡単に解消して「はい、おしまい」というものは少ないものです。
      • 知恵遅れの子供を持った母親が、「このような子どもを持ったことに逆に感謝します」
      • といってカウンセリングを終了します。
      • しかし、しばらくすると「どうしてこういう子どもをもってしまったのだろう」
      • と再び悩みます。
      • むしろ再び沸き上がったこうした思いを起点として、
      • その人はいっそうの人格発展を遂げていくのだ
      • ということをカウンセラーは知っていないと、
      • クライアントの「洞察」に喜び過ぎて錯覚を起こしてしまうのです。

  13. 親子の場合
      • 例えば子どもに焦点をあてると、母親とはあまり話し合わないようにします。
      • 家庭訪問して母親が話したそうにしても話さずに帰ります。
      • これは冷淡なようですが、カウンセリングというものは本来、
      • 一対一の人間関係を基盤としたものであり、
      • その人間関係を大切にして仕事をやり抜いて行くわけですから当然のことです。

  14. クライアントが家出すると言った場合
      • クライアントが家出をしたいと言い出すときには、二つの場合が考えられます。
      • まず、カウンセリングのつらさから逃げ出したいような気持ちと、
      • そのつらさをどこまでがカウンセラーが分かってくれるか、
      • あるいはどこまで本気でしてくれるのか知りたいという気持ちが絡み合って、
      • まるでカウンセラーの応答を試すかのような意味で言う場合。
      • もう一つはクライアントの自立心が強くなってきて、
      • その表れとして家出ということが生じることが考えられます。
      • 何も家出をしなくても自立はできるわけですから、
      • しばらくするとそのことにクライアント自身で気づく場合が多いように思います。

        （補足）自我について

      • 自我は統合性を持っています。
      • つまり自我の中にあまり矛盾がないように、
      • 例えば自分が男性であるのに女性であるなんてそんな馬鹿なことは思っていません。
      • このように自我は主体性、同一性、他者との区別、統合性という特徴を持っています。
      • そしてこれら全てに「ある程度」という言葉がつきます。
      • 他者との関わりの中で存在する相対的なものだと思います。
      • したがって、自分を取り巻く環境が不安定であれば、この４つの特徴の中のどれかが案外もろくも崩れるのです。

        （補足）注意事項

      • ひどい自我意識の障害をおこしているひとはすぐに精神科医に相談をしなければなりません。
      • 精神科医は病理の治療が専門です。摂食障害や自傷行為などは神経科の分野です。

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